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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(さ)2号 判決 1965年7月01日

主文

佐賀簡易裁判所が被告人に対し昭和三九年九月二九日にした略式命令を破棄する。

本件公訴を棄却する。

理由

検事総長馬場義続の非常上告申立理由は別紙のとおりである。

関係記録を調べてみると、原裁判所である佐賀簡易裁判所は、本件被告人に対する佐賀区検察庁検察官事務取扱検察事務官溝口藤雄が昭和三九年九月二九日にした略式命令請求に基づき、即日、「被告人は昭和三九年四月二九日午後四時三〇分ころ、佐賀県公安委員会が道路標識によつて追越し禁止の場所と指定した神埼郡三田川村自衛隊前附近道路において、自動三輪車を運転して普通貨物自動車を追い越したものである」との事実を認定、昭和三九年法律第九一号による改正前の道路交通法三〇条一項、九条二項、一二〇条一項三号、同法施行令七条、罰金等臨時措置法二条、刑法一八条、昭和三九年法律第九一号道路交通法附則一七項を適用した上、「被告人を罰金三千円に処する。右罰金を完納し得ないときは金二百円を、一日に換算した期間被告人を労役場に留置する」旨の略式命令を発し、同命令は同年一〇月二七日被告人に送達され、正式裁判請求期間の経過により、同年一一月一一日確定したものであるところ、右簡易裁判所は、前同区検察庁検察官事務取扱検察事務官原田武が同年九月二八日にした略式命令請求により、即日前同一事実につき適条も主文も前記と同一の略式命令を発し、同命令も被告人に同じく右一〇月二七日に送達され、且つその確定の日も右と同じく一一月一一日であることが明らかである。

されば、右簡易裁判所としては、後に略式命令の請求を受けた事件はこれを刑訴法四六三条一項により通常の手続に移した上、同法三三八条三号により公訴棄却の判決を言い渡すべきであつたものである。しかるに同裁判所がこの手続をとることなく、本件被告人の同一犯罪事実について重ねて略式命令を発したのは、明らかに違法であり、本件非常上告は理由がある。

よつて、刑訴法四五八条一号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠)

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